トップメッセージ
サスティナビリティに関する代表取締役社長からのごあいさつ。
未来に向けて進化する「ベスト・ウェイ」
東日本高速道路株式会社 代表取締役社長 由木 文彦
今後の事業環境で起こる三つの変化
NEXCO東日本グループは発足して2025年で20年を迎えます。これまでを振り返ると、「民営化によって社会要請に応えていくことが求められてきた20年」だったと言えます。
まず、高速道路サービスの質の向上を追求してきました。お客さまの目線に立って、例えばSA・PAのトイレをきれいにすることなどに取り組んできました。また、民営化の契機となった約40兆円の債務返済に向けETCの利用促進など効率化を進めてきました。そして組織体としては、透明性・公正性を持った事業運営を意識し、維持管理を担う企業を子会社化して連結決算にするなど、事業の透明性を強化しました。
今後の事業環境では、これまでの20年とは異なる三つの大きな変化が起きると認識しています。
一つ目の変化は、「サステナビリティへの責任が増すこと」です。具体的には、未来のステークホルダーである次世代に対する責任をどう果たすかということです。2023年に道路整備特別措置法が改正されて、高速道路の大規模更新・修繕の財源確保を目的とし、料金徴収期間を最長で2115年まで延長できることが決まりました。長期的な視点で事業運営を考え、高速道路を維持していきながら、地球環境への負荷を減らし、地域社会への貢献もさらに問われることになります。
二つ目の変化は、「事業環境が厳しくなること」です。気候変動は深刻化し、災害も激甚化しています。豪雨や豪雪だけでなく、日本各地で山火事も起きるようになりました。また、2025年1月には埼玉県八潮市で道路陥没事故が起きました。インフラの老朽化は想像の域を超えて進んでいます。さらに、南海トラフ地震や首都直下地震などが将来的に起こるとも予想され、大規模震災への備えは欠かせません。人口減少という別の課題も深刻化しています。人口が減ることで自動車の保有台数も免許取得者数も減ります。その結果、交通量が減少し当社グループの収入も影響を受けます。加えて、物価や人件費、金利も上昇局面にあり、企業にとって費用負担は増すばかりです。この厳しい事業環境で持続可能なサービスの提供が求められることになります。
最後の三つ目の変化は、「未来に向けた新しい芽が出ていること」です。これまでに述べた2つとは異なり、将来的に明るい話です。地球温暖化や物流問題を解決するために乗り越えるべきハードルは厳しいですが、ICTやDX化等による技術が実装に足るだけのものに近づきつつあります。さらに、自動運転や生成AI、ロボティクス、再生可能エネルギーなどを駆使することで新たなビジネスチャンスも期待できます。
これから先は厳しい変化も待ち受けていますが、新しい技術を活かすことで展望が開けるものと考えています。
高速道路を通じたサステナビリティへの取組み
当社グループでは、民営化による実績をさらに深化させ、これまで申し上げた三つの大きな変化に向けて対応すべく、さまざまな取組みに着手しています。
まず、高速道路インフラの長寿命化と安全性向上を目的に、2015年度からリニューアルプロジェクトを進めています。2024年度には新たな更新計画を追加しました。構造物の劣化度合を事前に把握し対応することで、ライフサイクルコストの削減にも努めています。
耐震補強工事については、2024年に耐震補強実施計画を立て、震度6弱以上の地震発生確率が26%以上の地域を優先的に取り組み、2030年度末までに完了させます。
渋滞対策としては、関越道 高坂SA付近の付加車線を一部運用開始しました。また、逆走対策についても、高齢者増に伴い今後増える可能性もあるため、注意喚起を強化するなど、オンゴーイングの課題として取り組んでいるところです。
カーボンニュートラルの分野では、2025年、道路法が改正され、国の「道路脱炭素化基本方針」に基づき、道路管理者が脱炭素化の推進計画を策定する枠組みが導入されましたが、当社グループでは、これに先駆け昨年度に「カーボンニュートラル推進戦略」を公表しました。
深刻化する気候変動は、災害リスクに直結します。そこで取り組んでいるのが、暫定2車線区間の4車線化です。暫定2車線区間では、事故や災害が起きると一時的に全車両を止めなければいけません。4車線化によって、大雪による立ち往生や大雨によるのり面の崩壊などが発生した際に交通機能を回復しやすくなります。4車線化事業が大雪に適応する事業として、国内で初めて、「サステナビリティ・ファイナンス」(気候変動などの環境問題や社会的課題の解決に向けたプロジェクトを目的とした資金調達)の第三者評価を昨年6月に取得しました。
厳しくなる事業環境にDXで対応
担い手不足という社会課題に対応するため、DXの推進にも力を入れています。
その一つが、「スマートメンテナンスハイウェイ(SMH)」です。これは、ICTやロボティクス、AIなど最新技術を活用し、高速道路のアセットマネジメントにおける生産性を向上させるプロジェクトです。例えば、点検支援アプリの導入により、これまで紙ベースで行っていた点検業務に関して、点検準備から結果の入力作業までの一連の業務をタブレットで完結できるようになりました。引き続き、各種SMHツールの定着及び深化させていくことで、業務の効率化・高度化を図るとともに、各業務における意思決定プロセスの標準化と生産性の向上を目指してまいります。
請負業者とのやり取りにおいても、業務の機械化や書類の簡素化を行っています。また、現場に行かなくても、ウェアラブルカメラやセンサーなどを用いて状況を確認できる「遠隔臨場」を業界全体で進めるため、ガイドラインを作成しました。また、北海道では、準天頂衛星を活用して、標識車がロータリ除雪車を自動追尾する技術開発をいすゞ自動車(株)と共同で実施し、これまで2人で行ってきたことを1人でできるための取組みを進めています。高速道路のDXは当社グループ挙げて取り組むと同時に、関係企業と協力していくことが必要です。
SA・PAの無人店舗にも取り組んでいます。SA・PAでは国内初の取組みとして、2024年11月に上信越道 東部湯の丸SA(下り線)、2025年3月に東北道 蓮田SA(上り線)で無人販売店をオープンさせました。
これらのDXの取組みだけにとどまらず、次世代を担う人材の育成にも力を入れています。2023年度に策定した「人材育成方針」では、当社が求める人材像・能力・スキルを明確にしたうえで、社員一人ひとりの能力やスキルを最大限発揮できるよう人材育成を強化し、キャリア形成に役立ててもらっています。
未来の萌芽に向けての準備
これまで夢物語であったことが現実化し、新しい高速道路として期待に応えていくための準備段階にあるのが現状と認識しています。
例えば、「moVision」(自動運転社会の実現を加速させる次世代高速道路の目指す姿(構想))です。安全運転を支援するプロジェクトとして、車両単独では検知できない前方の事故車両等の情報の充実のために、 道路側情報を収集・処理する「多機能ポール」の設置を東北道 鹿沼IC~宇都宮IC間11.5㎞で進めます。また、EV車は電池が重く非EV車の2倍くらいの重量があり、これが高速道路を傷めることになります。走行中給電が可能となれば、EV車の軽量化やカーボンニュートラルにも寄与するため、この実現に向け、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募に関西電力(株)などと応募し、技術開発に着手しています。
いかに情報を活用し、発信していくかということも重要です。例えば、東京湾アクアラインでの「ETC時間帯別料金の社会実験」のように、割引料金の変動を事前にお客さまへお知らせすることで、交通量の分散を図り、休日における特定時間帯の渋滞緩和に取り組んでいます。また、新たな深夜割引では、走行距離を把握することで、対象を割引適用時間帯の走行分のみに改めます。さらに、SA・PAにおけるダブル連結トラックの駐車を事前に予約できる仕組みについても検討を進めています。
また、「ドラぷらイノベーションラボ」と名づけた取組みでは、ベンチャー企業の技術を意識的に取り込むため、(株)BONXと(株)AirXの2社に出資しました。(株)BONXでは、工事現場の騒音の中でもクリアな音声を伝達できるデバイスを開発しています。(株)AirXには東北道 長者原SA(上り線)を離発着地とする遊覧フライトを実施してもらうことで、空とのコラボを進めています。
次の5年は、変化の激しい時代を乗り切る力をつけていくための期間
将来の当社グループのあるべき姿を構想するにあたり、右肩上がりの成長を前提にできない中で必要なものをどう選ぶか、社会の課題にどう応えるかという視点を社員一人ひとりが持つことが重要です。
現在、次期中期経営計画(2026年度~2030年度)を策定中です。来年度からの5年間を、「仕組み」と「行動」の両面から、変化の激しい時代を乗り切る力をつけていくための期間と考えると、取り組むべき課題は三つあります。
一つ目の課題は、「将来の高速道路に対する期待に応えること」です。
これからは、耐震補強や4車線化などのハード面だけではなく、ソフト面であるオペレーション能力の向上が問われます。2025年4月に発生したETCシステム障害時の混乱への対処や、パンデミック下でのサービス提供、そして災害時における緊急車両の早期通行の確保など、いかなる状況下でも道路機能を維持できる体制構築にしっかり取り組んでいきます。
また、渋滞対策としても、一般道をご利用中の方に高速道路情報を効果的にお伝えすることや、東京湾アクアラインのような割引料金の変動により交通を分散させる仕組みなど、オペレーションの工夫によってお客さまのご期待に応えることも考えています。
高速道路料金についても、コストが上がらない時代が続き、30年間変わらず同水準としておりました。しかし、物価などが上昇局面にある現在、高速道路サービスの持続的提供に向けて、今後の料金制度のあり方について真剣に考えていく必要があるものと認識しています。
二つ目の課題は、「サステナビリティに向けて取り組むこと」です。
再生可能エネルギーに関しては、富岡バイオマスガス化発電プラントにおいて、高速道路の維持管理で発生する刈草や剪定枝、間伐材などのバイオマスを利用して発電し、料金所にも電気を供給しています。また、太陽光発電についても、東北道 泉本線料金所跡地にメガソーラーの太陽光パネルを設置していますが、今後は、高速道路の空間を有効に活用した再生可能エネルギー創造に向け、薄くて曲げることも可能な「ペロブスカイト太陽電池」にも注目しています。
EVシフトへの対応としては、EV急速充電器の口数を当社管内で2025年度までに337口(NEXCO3社で1,073口)整備する予定で、これにより高速道路におけるEV急速充電器の空白区間(概ね70km以上の間隔)が解消されます。今後も、国とも調整し、さらに整備を拡大する予定です。
地域社会のサステナビリティへの貢献も重要な課題です。例えば、SA・PAを地域の拠点とした「NEXCO東日本版MaaS」の取組みとして、長野県小布施町と連携し、上信越道 小布施PAと接続する道の駅オアシスおぶせを活用した「モビリティハブ」の実現に向け検討しています。また、東北道 蓮田SA(上り線)のようにSA・PAの商業施設をもっと地域の皆さまにもご活用いただくことも考えているところです。
三つ目は、「未来を創るシーズへ対応していくこと」です。
当社グループとして、新しい物流システムにどのようにチャレンジし貢献していくか、例えば、長距離輸送を複数のドライバーで分担し、途中のSA・PAでドライバーを交代する輸送方式である「中継輸送拠点」の整備は、その一例です。
また、当社グループが持つ情報やビッグデータなどを有効活用し、特に交通情報をより的確にお知らせすることで渋滞緩和を図っていくことに加え、全体の物流計画やお客さまの旅行計画などに資する情報の発信についても検討していきたいと考えています。
さらに、既存リソースを有効活用し、例えば路面や側壁などを活用して道路全体で太陽光発電をすることができないか、または道路空間に再生可能エネルギーの送電スペースを提供できないかということも考えられます。未来に向けたシーズへの対応に向け、ベンチャーとタッグを組んだ新しい提案も積極的に取り組んでいきます。
未来に向けて進化する「ベスト・ウェイ」
当社グループとして未来に向けて進化するには、「現場を見る力」と「アンテナを高く・関心を広く持つこと」が不可欠であると思っています。
「現場を見る力」が大事であることを実感したのは、私が京都市の副市長だったときのことです。2009年に新型インフルエンザが大流行し、当初、国から全ての保育施設を閉鎖するよう方針が示されました。
当時の市長は現場をよく理解しており、「多くの看護師が保育園に子供を預けているので、保育園が閉鎖されたら自分の子供の面倒を見ざるを得ない、そうすると病院が機能しなくなる」と考えていました。このような事情を国に話したところ、状況に応じて柔軟に運用できるように見直され、保育園の休園はしないことが認められました。このことで、現場の状況を適切に把握し判断することがいかに大切かを改めて認識させられました。当社グループの強みは、現場を持っていることです。必要なことはすべて現場にあります。机上の空論に陥ることなく、本当に現場の課題解決に役立っているのかという視点を持ち続けることが重要です。
次に、「アンテナを高く・関心を広く持つこと」です。例えば、諸外国の動向やベンチャー企業の取組みなどをより広く見ていくことです。走行中給電に関しては、諸外国の事例を注視していく必要がありますし、雪氷対策についても北欧やカナダでの取り組みも参考になると思います。また、大学や研究機関との接点を持ち、土木・情報・環境等の学問領域との共同研究を進めていくことも重要です。
このようにウィングを広げアンテナを張ることで、新たな知見を取り入れ、変化の激しい時代を乗り切る実力をつけてまいります。
当社グループは、これからも安全・安心・快適・便利な高速道路を提供していくとともに、持続可能で未来志向の社会インフラの担い手として、新たな時代を切り拓いてまいります。未来に向けて進化する「ベスト・ウェイ」にどうぞご期待ください。